「あぶさん」登場の江本孟紀さん 水島新司さん死去、語った逸話が死去

「ドカベン」「あぶさん」などの野球漫画で知られる漫画家の水島新司さんが10日、肺炎のため82歳で死去した。「あぶさん」に実名で登場し、南海、阪神などで投手としてプレーした江本孟紀さん(74)=サンケイスポーツ評論家=は「さみしいですね。野球はもちろん、野球選手のことを愛してくれた人でした」と思いをはせた。

大酒飲みの主人公・景浦安武が南海ホークス(現ソフトバンク)で活躍する姿を描いた「あぶさん」は1973年に連載が始まり、当時南海でプレーしていた江本さんも作中にたびたび登場した。連載開始当初は「知らなかった」と江本さん。しかし、本拠地・大阪球場近くの歓楽街「ミナミ」を歩いていると、「漫画に出てますね」などと声をかけられることが増えたという。

「それで漫画を見てみたんですね。僕はお酒を一滴も飲まないのに、酒飲みのキャラクターで描かれていた。球場に来た水島さんにそのことを伝えると、次の号から全く酒を飲まないキャラになっていました」と笑って振り返る。「当時はパ・リーグの人気がなかったので、露出するのはうれしいもんですよ。水島さんは南海ファンだったので、ちょっとでも盛り上げようと思ってくれたんでしょう」

江本さんには、今なお語り継がれるエピソードに水島さんとの縁がある。阪神に移籍した江本さんは81年に「ベンチがアホやから野球がでけへん」との「名言」を残し、その年に現役引退した。途中交代を告げられた江本さんが怒っての発言だったが、この時、我を忘れてグラブをスタンドに投げ入れてしまった。実はこのグラブには水島さん直筆の江本さんの似顔絵が描いてあったが、「そんなこと完全に忘れていました」。

20年後。テレビ東京の人気番組「開運!なんでも鑑定団」に、スタンドでそのグラブを拾った人が出演し、鑑定を依頼。すると「60万円」もの値が付いたという。江本さんは「鑑定人の方の話をよくよく聞いてみると、水島さんの似顔絵が描いてあるからこの値がついたんですよ。僕のグラブだけでそんなに価値がありませんから」と懐かしみつつ「もったいないことしたなって思います」と笑う。

結婚式への出席など親交があったといい、江本さんは「人のことをよく気にかけてくれる優しい人でした。天国でも思う存分、野球漫画を描いてほしいですね。でも、僕は酒を飲まないので、そのことをお忘れなく」。冥福を祈り、そっと語りかけた。【大東祐紀】

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