「みんな熱球志願」水島新司さん 試合ごとに多様な「主役」描きが死去

「ドカベン」「あぶさん」などの野球漫画で知られる水島新司(みずしま・しんじ)さんが10日、肺炎のため死去した。82歳。

高校野球からプロ野球、時には草野球まで、ありとあらゆる野球の世界を漫画にし続けた水島新司さん。ただ、デビュー時から野球漫画一辺倒だったわけではなく、徐々に納得のいくプレーの絵を描けるようになって、機は熟したと野球漫画以外の依頼を断るようになったのだという。それだけ、愛する野球への思い入れは強かった。

1試合で最低でも各チーム9人が打席に立ち、途中から出場した選手がサヨナラ打を放つこともあるなど、ベンチの誰もが「主役」になる機会があるのが野球という競技の特性。それにならえば、水島さんの漫画には、試合ごとに実に多様な「主役」が出現した。

「ドカベン」や「大甲子園」で描かれる明訓高校。中心打者の山田太郎や岩鬼正美が決勝打を放つ試合も多いが、山田らが2年次の春のセンバツ決勝では、同級生の殿馬一人が「主役」に。小柄で長打を放つ場面がほとんどない彼が、打席に立つ際にある工夫をして外角に球を投げさせ、ライト方向にサヨナラ本塁打を放つ。山田の前後を打つ打者の活躍や小柄なエース里中智の力投もあり、明訓は僅差の勝負を制していく。

「あぶさん」の景浦安武は、代打として類いまれな集中力を発揮し、スタンドにアーチをかけ続けた。「野球狂の詩」では東京メッツに入団した女性投手の水原勇気が、変化球「ドリームボール」を駆使して打者を抑える。レギュラーでなくても、豪速球を投げられなくても、どうすればプロの世界で勝負できるのか――。作中で選手らが答えを模索する姿は、野球以外の世界に身を置く人が生きるヒントにもなった。

「あぶさん」で、景浦が中学野球のコーチをする話がある。チームの中心打者だが、自分のおかげで勝てていると言い募る中学生に、景浦は持論を述べる。「いろんな役わりがあってひとつのチームができあがっている。しかもその役わりに善し悪(あ)しはないんだ」「みんな熱球志願なんだから」。選手にも、野球ファンにも、日本中に多くの“熱球志願者”を生み出した水島さんが天国に旅立った。【屋代尚則】

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