能楽師シテ方観世流の名手で人間国宝の野村幻雪(のむら・げんせつ、本名・野村四郎=のむら・しろう)さんが21日、多発性血管炎性肉芽腫症のため亡くなった。84歳。葬儀は近親者のみで営む。お別れの会を後日開く。喪主は長男昌司(まさし)さん。
1936年に狂言方和泉流の六世野村万蔵の四男として生まれる。長兄の野村萬さん、次兄の野村万作さんは狂言方で、兄弟で唯一シテ方の道を進んだ。
40年に3歳で「靱猿(うつぼざる)」の猿で初舞台を踏み、15歳まで狂言師として舞台に立つ。52年に二十五世宗家観世元正(左近)に入門。観世寿夫にも師事し、その技芸を吸収。「安宅」「関寺小町」「卒都婆(そとわ)小町」「鸚鵡(おうむ)小町」などの古典曲はもちろん、「実朝」などの新作能まで優れた舞台を見せた。今年7月28日、東京・国立能楽堂で開催された「東京2020オリンピック・パラリンピック能楽祭」に仕舞「井筒」で出演したのが最後の舞台となった。
2016年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。21年には観世宗家から同流で功績著しい能楽師に与えられる「雪号」を授与され、幻雪となった。
東京芸術大学音楽学部邦楽科教授(現名誉教授)を長く務め、後進の育成にも尽力した。日本能楽会会長。紫綬褒章、日本芸術院賞など受賞・章も多数。著書に「狂言の家に生まれた能役者」など。