23日、肺炎のため93歳で亡くなった奈良岡朋子さんが晩年、ライフワークとしていたのが井伏鱒二原作の「黒い雨」の朗読だった。原爆が影を落とす家族の物語。奈良岡さんの知的なたたずまいで紡がれる言葉が、心をかきむしりながら、じわじわと浸透してきた。忘れられない時間だ。
太平洋戦争を10代で経験した奈良岡さんは、長く戦争体験を語ってこなかった。口を開いたのは70歳を過ぎてから。2015年のインタビューで、安保法案の強行採決など世の中の流れに警鐘を鳴らし、「生き残った人間が悲劇を語り継いでいかなければという責任を感じる」と強い口調で語っていたのが印象的だ。
「戦争という言葉にトラウマがある。反射的に嫌悪感を持つ」とも口にしていた。…