中根千枝さん死去 94歳 社会人類学者「タテ社会の人間関係」が死去

女性初の東京大教授で、100万部を超すロングセラー「タテ社会の人間関係」の著者として知られる社会人類学者、中根千枝(なかね・ちえ)さんが10月12日、老衰のため死去した。94歳。葬儀は近親者で営んだ。喪主は妹松井淳子(まつい・あつこ)さん。

東京都生まれ。津田塾専門学校(現津田塾大)を経て東大大学院修了。米シカゴ大客員助教授、英ロンドン大客員講師、東大助教授などを経て1970年に同大教授。同大東洋文化研究所所長、同大評議員なども務めた。87年に定年退職後は、帝京大教授、東京女学館大の初代学長などを歴任した。民族学振興会理事長、日本ユネスコ国内委員会会長なども務めた。95年に女性初の日本学士院会員となり、2001年には学術系で女性初の文化勲章を受章した。

インド・アッサム地方を調査した成果をまとめた「未開の顔・文明の顔」で59年、毎日出版文化賞を受賞した。67年の「タテ社会の人間関係」は、東大の教授会と、以前に調査した漁村の寄り合いに共通性を感じたことが執筆のきっかけだった。上下の序列を重視し、「ウチ」と「ソト」を差別する日本社会全体に共通の特質を描き出したことが、国内外で評価された。現在も、日本の社会構造や文化を論じる際の基本的な文献の一つとして参照され続けている。他の著書に、「タテ社会の力学」「社会人類学」「中国とインド」など。

私の東京大助手時代の上司で、私がタイで調査しているときなど、しばしば励ましの手紙を送ってもらった。女性の社会進出のパイオニア的存在であるだけでなく、インドでの研究が英国で評価されるなど、欧米で認められた最初期の日本の人類学者だった。「タテ社会の人間関係」は、高度経済成長を背景に企業幹部など一般に広く受け入れられた。英国でも文庫化されるなど国際的評価も高く、日本文化論流行の先陣を切ったともいえる。

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