「内向の世代」を代表する作家で、独自の文体・作風で日本の現代文学に大きな影響を与えた古井由吉(ふるい・よしきち)さんが18日、肝細胞がんのため死去した。82歳。葬儀は近親者で営んだ。
東京都生まれ。東大独文科卒。同大大学院修士課程を修了後、金沢大、立教大で教える傍ら、ブロッホ、ムージルら現代ドイツ語作家の作品を翻訳。1968年から小説を発表し始め、70年に作家専業へ転じた。翌71年、「杳子(ようこ)」で芥川賞を受賞。細密な心理の動きを肉感的な文体で描き、注目を浴びた。
後藤明生、阿部昭、黒井千次さんらとともに「内向の世代」と呼ばれ、経済成長期の社会状況と生活感覚を象徴する作家と見られた。古今東西にわたる文学的教養を踏まえ、土地の伝承、説話など民俗学的な要素を取り入れた作風は、文壇の枠を超えた存在感を持った。86~2005年、芥川賞選考委員を務めた。
長編「栖(すみか)」(79年)で日本文学大賞、「槿(あさがお)」(83年)で谷崎潤一郎賞、「仮往生伝試文」(89年)で読売文学賞、「白髪(はくはつ)の唄」(96年)で毎日芸術賞を受賞。その後も作品は高く評価され続けたが、各種の賞を自ら辞退。国からの褒章等も受けなかった。
他の代表作に「円陣を組む女たち」「行隠れ」「山躁賦(さんそうふ)」「中山坂」「野川」など。競馬ファンとしても知られ、エッセー集「折々の馬たち」などがある。生前に「古井由吉作品」(全7巻)、「古井由吉自撰(じせん)作品」(全8巻)の2度、著作集が編まれた。