「ドカベン」「あぶさん」などの野球漫画で知られる水島新司（みずしま・しんじ）さんが10日、肺炎のため死去した。82歳。
新潟市出身。中学校卒業後、家業の魚屋を手伝いながら漫画の道を志す。1958年、大阪の貸本漫画誌に投稿した「深夜の客」がデビュー作で、その後、貸本から少年誌に進出。70年、少年誌で高校球児の投手が主人公の「男どアホウ甲子園」（原作・佐々木守）の連載を開始した。
72年からは「週刊少年チャンピオン」で「ドカベン」の連載を始める。神奈川県代表の明訓高校が春、夏の甲子園大会で活躍する物語。豪打の捕手、山田太郎をはじめ、とんでもない悪球を本塁打にする岩鬼正美、華麗な守備や「秘打・白鳥の湖」など不思議な打法を見せる殿馬一人ら、個性豊かな選手たちが人気を得た。同年から別の少年誌で連載したプロ野球セ・リーグの架空の球団、東京メッツを舞台にした「野球狂の詩」も評判に。「ドカベン」「野球狂の詩」は共にテレビアニメ、実写作品にもなった。
73年からは「ビッグコミックオリジナル」で、パ・リーグの南海ホークスに入団した架空の選手、景浦安武（やすたけ）が主人公の「あぶさん」を連載。球場で口に含んだ酒をバットに吹き付ける「酒しぶき」を披露する代打の切り札・景浦の活躍や、周囲の登場人物が織りなす人情劇の要素が根強い人気を得た。
「あぶさん」の景浦は現実の球界でダイエー、ソフトバンクと親会社が変わる中、ホークス一筋で60代まで選手生活を全う。連載は2014年まで続いた。「ドカベン」は、山田や岩鬼らがプロで活躍する「プロ野球編」などの続編も連載され、18年に「ドリームトーナメント編」が完結した。
自身も大の野球好きで、草野球チームで年間130ほどの試合をこなしたことも。自身の作品が縁で、プロ野球選手や球界関係者との交友も広かった。05年に紫綬褒章を受章。07年には日本漫画家協会賞文部科学大臣賞を贈られ、14年には旭日小綬章を受章した。20年12月1日に事務所を通じて「63年間頑張って参りましたが、本日をもって引退することに決めました」と漫画家引退を宣言していた。