映画「時をかける少女」などの「尾道3部作」で知られる映画監督、大林宣彦(おおばやし・のぶひこ)さんが10日、肺がんのため死去した。82歳。葬儀は家族で営む。後日お別れの会を開く。喪主は妻恭子(きょうこ)さん。
広島県尾道市の医師の家に生まれた。幼い頃から映画作りに親しみ、成城大在学中から前衛映画運動に参加、実験的な8ミリ映画を数多く製作した。大学中退後テレビCMの演出を手がけながら、自主製作で映画を撮り続けた。CMではチャールズ・ブロンソンを起用した男性化粧品や、山口百恵さん、三浦友和さんを起用したチョコレートなど、多くの話題作で注目された。
1977年、「HOUSE/ハウス」で商業映画デビュー。書き割りの背景と人物を合成するような前衛的な手法を取り込んだホラー映画だった。80年代には角川書店の書籍と映画を連動させるメディアミックス戦略の中でアイドル映画を手がけ、次々とヒットさせた。81年の「ねらわれた学園」で薬師丸ひろ子さん、83年の「時をかける少女」で原田知世さんをスターに押し上げた。自身の故郷である尾道を舞台にした「転校生」(82年)、「時をかける少女」「さびしんぼう」(85年)は「尾道3部作」として高く評価される。坂の多い町並みを効果的に取り入れたみずみずしい青春映画で、ロケ地は観光名所となった。
その後も大手映画会社と組んだ商業作品と、自身の製作会社による作家性の強い小品を並行させながら、精力的に創作に取り組んだ。いずれも叙情性と人間への深い愛情に裏打ちされた物語が、実験的、先鋭的な映像を用いて描かれる。88年「異人たちとの夏」で毎日映画コンクール監督賞。
近年は大分県を舞台にした「なごり雪」「22才の別れ」、新潟県長岡市が舞台の「この空の花 長岡花火物語」「野のなななのか」など、地域の文化や伝承を取り込み、失われゆく土地の記憶を映画で継承するような作品を手がけてきた。
2017年公開の「花筐(はながたみ)」は自身のデビュー作として温めていた檀一雄の小説を40年越しで映画化。撮影開始時に末期の肺がんを公表し、治療を受けながら撮影し完成させた。軍国少年だった自身の体験を時代に重ね、反戦のメッセージを込めた作品だった。尾道市を舞台にした20年公開予定の「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は遺作となった。
19年に文化功労者。妻恭子さんは学生時代の後輩で、プロデューサーとして創作を支えた。長女の千茱萸(ちぐみ)さんは文筆家。