長崎県の通称「軍艦島」をとらえた骨太なドキュメント写真や、光と影のコントラストを巧みに取り入れた都市の光景で国際的な評価を得た写真家、奈良原一高(ならはら・いっこう、本名・楢原一高=ならはら・かずたか)さんが19日、心不全のため死去した。88歳。葬儀は近親者で営む。喪主は妻恵子(けいこ)さん。後日、お別れの会を開く。
福岡県大牟田市生まれ。検事だった父親の希望で中央大法学部を卒業したが、その後、早大大学院芸術専攻に進んだ。1956年、炭鉱のある軍艦島など、過酷な土地で暮らす人々をドキュメントした「人間の土地」を発表。一躍脚光を浴びた。ベネチア国際写真ビエンナーレで銅賞を受賞した59年、細江英公さん、東松照明さんらと共に写真家集団「VIVO」を結成(61年解散)。写真界に大きな影響を与えた。
62~65年にパリを中心に欧州に滞在。長時間露光や陰影を強めるなどさまざまな技法を駆使した撮影に取り組んだ。この時の作品をまとめ、67年に刊行した写真集「ヨーロッパ・静止した時間」で、毎日芸術賞と芸術選奨文部大臣賞を受賞。70年代前半はニューヨークに滞在し、「消滅した時間」(75年)で国際的評価を不動のものにした。